幸せになるのが、なぜか少し怖い|回復にブレーキをかけているもの

「早く、ラクになりたい」
「なのに、よくなりかけると、なぜかブレーキがかかる」
「元気になったら、あのつらさが、なかったことになる気がする」

こういう感覚は、なかなか人に言えないですよね。
自分でも、意味がわからないから。

これは、第1章でお話しした”元に戻る力”(コンフォートゾーン)とは、また別の理由です。

長いあいだ、私も自分でうまく説明できずにいました。
よくなりたくて、たくさん学んで、たくさん向き合って。それなのに、いよいよ軽くなりそうになると、きまって何かが止めるんです。

その正体に、あるとき、ふいに触れました。
私の口から出てきたのは、こんな言葉でした。

「幸せになるのが、悔しい」

書いた瞬間、自分でも驚きました。
でも、いちばん深いところにあった本音は、たしかにこれだったんです。

※読んでいてつらくなったら、途中でやめて大丈夫です。深い傷は、ひとりで掘らずに専門家と一緒に見ていくのが安全です。

手のひらに握りしめた、1枚の写真

こんなふうにイメージしてみてください。

あなたの手のひらに、1枚の写真があります。
そこには、あなたがたしかに傷ついた、あの日のことが写っている。

あなたはずっと、その写真を握りしめてきました。
落としたら、消えてしまう気がするから。手を開いたら、「そんなことはなかった」ということにされてしまう気がするから。

だから握り続けた。ずっと、ずっと。

でも、握りしめた手では、ほかのものが持てません。
差し出された花も、あたたかい飲みものも、誰かの手も。

そして、ここがいちばん大事なところなんですが──
手を開いても、写真は消えないんです。

写っているものは、何ひとつ変わらない。
アルバムに入れて棚に置いても、あの日は、あった日のままです。

苦しみが「証拠」になっているとき

私がたどり着いた理解は、こういうものでした。

つらい経験のあとに、苦しみが長く残ることがあります。
そのとき、苦しみは苦しみのままではなく、いつのまにか「あれは本当に、ひどいことだった」という証拠の役割を持ちはじめることがあるんです。

私が苦しんでいるかぎり、あれが軽いことにはならない。
私が平気になったら、「大したことなかった」ことにされてしまう。

そう感じているとき、回復は、癒しではなく証拠を捨てる行為のように感じられます。
だから、よくなりかけると怖くなる。ブレーキが踏まれる。

これは、弱さでも、こじらせでもありません。
傷ついた自分を守ろうとしている、けなげな仕組みなんだと私は思っています。

だから、心の中に「回復したい私」と「回復させたくない私」が、同時に住んでいる。
どちらもあなたです。どちらも、あなたを守ろうとしています。

何度向き合っても、変わらなかった理由

私は、この構造を知ってからも、しばらく変わりませんでした。

理由は、たぶんこれです。
理解で終わっていたから。

原因を理解することと、その苦しみから受け取っているものを置くことは、別なんです。
私はずっと前者だけをやって、「わかったのに変わらない」と自分を責めていました。

でも、責める必要はなかったと今は思います。
置くのが怖いのは当たり前だから。それは長いあいだ、自分を支えてくれた柱でもあったのですから。

回復は、無罪判決ではありません

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

私が握りしめていた思い込みは、「私が幸せになったら、あの出来事が許されてしまう」でした。

でも、そうではなかった。
判決と、人生は、分けられる。

私が自分に言えるようになった言葉を、そのまま置いておきます。

– 起きたことは、間違っていた
– 私は、たしかに傷ついた
– 私が幸せになっても、その事実は変わらない
– 相手が認めなくても、変わらない
私が苦しみ続けなくても、私の痛みは本物だった

回復は、無罪判決ではありません。
あなたが笑う日が来ても、あの日の痛みが軽くなるわけではないんです。

そして、もうひとつ。
「相手が認めるまで、私は幸せにならない」と決めているかぎり、自分の人生の決定権を、いちばん渡したくない人に預けたままになってしまいます。

だから私は、こう考えるようにしました。
苦しみを置くことは、相手のためではなく、自分の人生を自分の手に返すためなんだ、と。

今日からできる、小さなワーク3つ

ワーク1:ブレーキの言い分を、そのまま書く

「よくなったら、何が失われる気がする?」

この一行だけ、ノートの上に書いてみてください。
出てきたことを、直さず、責めず、そのまま書きます。「私の努力が無駄になる」「誰も気づいてくれなくなる」──どんな言葉でもかまいません。

書き出すことが目的で、解決しなくていいワークです。

ワーク2:分離の5行を、声に出してみる

上に書いた5行を、そのまま声に出すか、手で書き写してみてください。

納得できなくても大丈夫です。心が「うそだ」と言っても、そのままで大丈夫。
先に言葉だけ置いておく、というやり方があります。

つらくなったら、そこでやめてください。

ワーク3:1ミリだけ、幸せを許可する

今日、小さな心地よさを1つだけ受け取ってみます。
あたたかい飲みもの。日の当たる場所に座る。好きな音楽を1曲。

もし罪悪感がついてきたら、追い払わなくていいです。
罪悪感ごと、受け取ってみる。それだけで、握っていた手が少しだけゆるみます。

よくある質問

Q. 相手を許さないといけない、ということですか?
いいえ。許しは条件ではありません。この記事は「許しましょう」という話ではなく、「許さなくても、あなたは幸せになっていい」という話です。

Q. 苦しみを手放したら、あの出来事がなかったことになりませんか?
なりません。あなたが傷ついたことは、あなたが証明し続けなくても、事実のままです。写真は、手を開いても消えません。

Q. 何度も同じところに戻ってしまいます。
戻るのが普通です。私も何度も戻ります。大事なのは揺れないことではなく、気づいて戻ってくる回数が増えること。気づけた時点で、もう前とは違うところに立っています。

まとめ:あなたの痛みは、本物のままです

よくなるのが怖いのは、あなたが後ろ向きだからではありません。

苦しみが、あなたの傷を守る役目を引き受けてくれていた。
それだけのことなんだと思います。

その役目を、少しずつ降ろしていっても大丈夫です。
あなたの痛みは、あなたが苦しみ続けなくても、本物のままだから。

握りしめていた手を、いつか、ほんの少し開ける日が来ますように🌸

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ひとりで向き合うのが難しいと感じたら

ここに書いたことは、深いところに触れる内容です。
読んでいて息が苦しくなったり、涙が止まらなくなったりしたときは、そこで閉じてください。それは失敗ではなく、心が「今はここまで」と教えてくれているサインです。

そして、つらさが続くときや、ひとりで抱えるのが重いと感じるときは、どうか専門家(医師・カウンセラー)を頼ってください。人と一緒に見ていくほうが、ずっと安全に進めます。

※この記事は自己理解とセルフケアのための情報で、医学的な診断や治療ではありません。つらい状態が続くときや、気になる症状があるときは、医療機関にご相談ください。

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